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我が家に雛人形が届いた。

うちの実家には雛人形を飾る慣習がなかった(小さなお菓子のおまけみたいなやつは時々飾ったかもしれないが)ので、ガチな雛人形があんなゴイスーだとは思わなかった。

いや、本当にガチなやつは何段にもなっていて、歌にもうたわれているようにお内裏様とお雛様をはじめ、三人官女、五人囃子などが末広がり連なっていて幼少のこどもにピラミッド構造のなんたるかを学ばせんとするたたずまいだが、そんな多段にスケールしたセットはやはり超高級品で、通常は一段だけの親王飾りが主流らしいと知った。

そんな親王飾りでも衣装雛や木目込といったつくりの違いがあるし、配偶者が「木目込といえば魔太郎」とか言うからなにそれ怖い!ってなったけど正確には真多呂というブランドだったし、真多呂の中でもランクがあってたとえば顔や手が樹脂なのか素焼きの陶器なのかで価格が違っていて、ある一定の水準を満たして伝統的工芸品の認証を得た人形だけが「伝〇」と書かれた高級メロンに貼ってあるような小さな金色のシールを貼ることが許されるしと奥が深い。

そして我が家では配偶者がどうしても真多呂さんがいいということで探していたが、そもそも木目込自体が地味だからか取り扱いが少なく、紆余曲折の末、真多呂さんのショールームである御徒町の真多呂会館にタクシーで乗り付ける。

そこである一品に一目惚れをする。

箔押し、と呼ばれる金粉で模様が描かれた仕様の限定品。その割にお値段もお手頃。お手頃とはいえ、ピンからキリまで見てきて感覚がマヒしていたので冷静に人形二体組の値段と考えるとゴイスーだ。

しかしこの先二十年、娘のために飾り続けることを考えれば妥協すべきでない、と我々夫婦の見解は一致。決断からカード一括払いまで一直線だった。購入後、一家三人で寿司を食べて雛人形との出会いを祝った。

いま、鳩時計やアロマやノートパソコンをどかして掃き清めたテレビ棚の上にそれは鎮座している。

まだ0歳の娘はその存在を認識していないけれど、数年後に気に入ってくれることを願って。