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あまりに値段の安い飲食店は不安になる。お客さんが少ないと余計に。

さっき入った中華屋で食べた定食は、メイン料理一品、ライス、スープ、サラダふたつ、ザーサイ、食べ終わる頃に届く半ラーメン、以上で750円。税込。安い。というか多い。しかもランチじゃなくて夜。

こんなにお得なのにお客さんが少ないのは、ははん、雨だからだな。と推測したのだけど、食べ始めてすぐに別の可能性に気づいた。あまりおいしくない……?

なんだか全体的に味が薄い。ぼんやりしている。中華料理って大げさで濃い味付けの祝祭感がたまらないのに、私服で踊るサンバのようなもの足りなさがある。羽根飾りがない。

スープはとろみと卵以外の雑味を感じず、つまり塩が足りていない雰囲気。まったくの無味ではないが、どちらかといえばとろみのあるお湯に近い。

一品料理は炒め物で、エビとカシューナッツが入っていた。味はあまり覚えていない。一所懸命食べたな、という印象は残っている。まずくて食べられないということはまったくないけれど、食べなきゃ先に進めない焦燥感に駆られていたように思う。もっと味わわないともったいない、でも味わうべき味があんまりない。そんな葛藤。

サラダがふたつある理由もわからない。でもそれはうれしい。ひとつはキャベツメインの普通のサラダで、もうひとつは量が少なくてチキンナゲットが一個だけ乗っていた。まとめてくれてもいいと思った。

半ラーメンは担々麺を選んだ。もっと辛味や刺激がほしい味だった。ライスとザーサイはごく一般的なもので、感動はないが安心はあった。そんな中、これはうまいと興奮したものがひとつだけあった。それは水だった。

文京区の水がうまいのかこの店の浄水器がよいのかわからないものの、とにかく水はごくごく飲めた。ミネラルウォーターか純水か、とにかく雑味も臭みもなく何杯でもいけそうだった。食後はその水を心ゆくまで堪能し、750円支払って満足して店を出た。

いい水だった。料理はアレだけど、こんなに水がおいしいんだし、そもそも今日は自分の味覚がおかしかったのかもしれないし、あるいはこの町の住民に中華料理好きがたまたま少ないだけかもしれないし、なんにしてもこの店がもっと流行ってくれればいいなと親近感を抱きながら帰途についた。

なお、すぐ近くの餃子の王将を通りかかったら満席だった。